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2016/01/11

列車の進路違い二例

高徳線の脱線

JR高徳線、側線に入り脱線 信号見落としが影響 香川 http://www.asahi.com/articles/ASHD04RNNHD0PLXB003.html

> 信号は赤だったが、運転士(54)が信号を見落として発車。衝突を防ぐ側線に自動的に入り脱線したという。

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この脱線を想定した側線を、安全側線と言う。

JR 西が昨年発表した、先進国並みに懲罰より安全確保を優先するルール

JR西、重大事故でも処分せず 人為ミスで新制度 http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201512/0008647273.shtml

> 事故の発生を招いた人為ミス(ヒューマンエラー)をした乗務員らを懲戒処分とはしない新制度を、来年 (2016) 4月に導入する方針を固めた

が普及してここでも適用されることを祈るが、列車の誤出発は想定されているヒューマンエラーで、エラーはシステムの設計通りにバックアップでき列車の衝突を正しく防げた事例だった。

安全側線については、1963 年の三河島事故 https://ja.wikipedia.org/wiki/三河島事故 を大きな契機として誤出発自体を防ぐ方向に設計思想が進み、新幹線には安全側線がない。しかし、1973 の東海道新幹線大阪運転所脱線事故 https://ja.wikipedia.org/wiki/東海道新幹線大阪運転所脱線事故 があり、その後も信号保安装置の故障、設計ミスによる事故が続き対策が重ねられたが、その二十年後になっても安全側線の方が優れているという主張を見かけた。

停止信号の手前で列車が自動停止するシステム ATS-P http://www.wdic.org/w/RAIL/ATS-P を採用出来れば安全性は高まるだろうが、費用は大きい。

長崎線の誤進入

高徳線の誤出発の記事から、去年の似て非なる事故を思い出した。2015/5 の長崎線事故 (役所用語では重大インシデント)

保安システムの基本原理に問題がある (脚注) のが明らかになったが、運転士の操作には問題は感じられない。

指令員が現場の状況を正しく把握できていなかったのが直接の原因と考えられているようだ。

【特急あわや衝突】93メートル手前で緊急停止 JR「ミスではない」 http://qbiz.jp/article/62790/1/

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この事故の時は、異音のために下り列車が場内信号を越えて停車し、

> ブレーキをかける前の速度は時速約35キロで、19号の先頭車両と2両目の一部が20号と同じ線路に入った。

> 指令は、駅近くにある信号機の手前に19号が停車していると判断し、信号機を赤にした上で、運行再開時には手動でポイントを操作して、待避線ではなく、本線を通過させる予定だった。

「手動でポイントを操作して」は、稚拙な表現が新聞に誤って受け取られたと考える。実際には信号機と転轍機の間にinterlock をかける「連動装置」の操作スイッチ (専門用語は梃子) があり、人が操作するならそのスイッチである。その上位に連動装置を制御する運行管理システムがある場合もあるが、長崎線の報道は、中央の指令室にも遠隔操作スイッチがある CTC 装置だけが設置されていたように読めた。

(参考: 列車のポイントについて http://chiebukuro.travel.yahoo.co.jp/detail/12104924427.html)

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連動装置のスイッチは、線路上の「発点」から「着点」への「進路」を開通させるのが操作単位である。

さて、この事故現場では、指令は下のように事態が進むと考えていたと思う:

(1) 元々、この駅では列車交換の予定はなかったので、下り列車が通過するため、下りの駅手前から駅構内への場内進路を本線側に開通、駅本線から下り方向へ出発する進路も開通させてあった。転轍機は二つとも本線側に転換され、鎖錠されて動かない状態になる。その後、各信号の現示 (色で示す状態) が「進行 ()」になる。

(2) 異音を感じて停止した下り列車は、場内信号が見えない位置まで進んで停止した。

(3) しかし、下り列車はシステム上は場内信号の手前にいることになっていた (脚注)。

(4)  (手動) 指令者は、下り通過のために開通させていた二つの進路を元 (列車を通さない初期状態) に戻し、上り列車が待避線に到着できるよう、上りから待避線側に到着する進路が開通するようスイッチを操作した。

 この時点で進行を示していた信号機は停止になるが、安全のため転轍機はすぐには作動せず、上りの場内信号も停止のままである。

(5) (4) から一定時間経過し、進行だった下りの信号が急に停止に変ったのを見た列車があっても停止できるとシステムが判断した時点 (遅延させる時間が定数として設定してある) で、転轍機の鎖錠が解け、待避線側に転換し再度鎖錠される。

 上り列車がこの駅で停止するまでに通るのは諫早側 () の転轍機だけだが、駅に停まれずに過走する可能性を想定してあるので、肥前山口側 () の転轍機も待避線側に転換する。

(6) 両転轍機の転換と鎖錠が完了したら、上りの場内信号が注意 (橙) 現示になる。出発信号が停止なので、進行現示にはならない。

(7) 上り列車が場内信号を通過し、上り場内信号は停止に変化する。

(8) 上り列車が諫早側転轍機を通過し、転轍機は鎖錠が解けて転換できる状態になる。

(9) 上り列車が定位置に停車する。

以下 (6a), (7a) と (6)-(9) との前後関係は不明

————

(6a) 下り列車の運転再開のため、下りの場内、出発信号を手動で再度本線側を通過するよう操作した。

     (8) に達すると、転轍機が本線側に転換し、下り出発信号が進行現示になる。

     (10) に達するまでは、肥前山口側では変化は起きない。

(7a) 下り列車に肥前竜王で上りと交換することを伝え、下り列車が走れる状態になったら信号が進行に変化するという想定のもと、運転再開を指示する。

————

(10) (7) から一定時間が経過し、上り列車が肥前山口側転轍機まで過走することがないと判断し、その鎖錠を解除する。

(11) (6a) の操作の結果として、肥前山口側転轍機が本線側に転換鎖錠される。

(12) (6a) (8) が完了しているので、下り出発信号は進行であり、下り場内信号も進行になる。

(13) 下り場内信号が進行になったのを見たはずの下り列車が発車し、本線側を通過する。

しかし、下り列車には下り場内信号が見えないため、指令が (7a) の指示を出し (8) が成立した時点で進行現示になっていた下り出発信号を見て (12) を待つことなく出発してしまった。

下りの運転士は、(12) を想定し、上り列車が既に待避線に到着停止しているのも見えていたので、それを疑わなかった。肥前山口側転轍機が待避線側に鎖錠されたままなのを見て驚愕し、非常ブレーキをかけた。

というのが実際に起きたことだろう。

対症療法として、異常事態により予定外の位置で停止した列車の運転士が位置を指令に伝える時に現在見ている信号機がどれであるかを明らかにさせる、という方法がありそうだ。しかし、人の判断に依存する部分があり、根本対策とはならない。根本対策には精度の高い位置検出に基づく信号保安システムが必要になるだろう。

共通の対処

先進国ではとっくに実現していることだと聞くが、現場を罰しても事態は改善しない。隠蔽体質を育てるだけだ。

現場、運転士だけでなく長崎線では指令員も含むが、現場で起きたミスに対し懲罰を与えず現象をできる限り正確に把握するのが第一だと思う。

懲罰のあるところには、懲罰への対処が発生する。それには隠蔽が含まれ、起きた現象が把握し難くなる。現象を把握できずに根本対策を立てるのは、無理である。


脚注

鉄道の信号は、線路上の決まった区間に列車が進入することの可否を示す。列車が実際に進入したことは、左右のレールを車輪と車軸が短絡したことで検知するが、その検知点は信号の位置と一致せず、信号を越えておよそ 10m 前後進んだ位置にある。このずれは、蒸気機関車など車輛の先頭に運転士がいない列車が、自分自身でこれから進入する区間の信号を停止 () に変えて動けなくなってしまうのを防ぐために設けられているのだろうと、今回の事故から想像している。

 

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